―― 白衣観音さま ――
本の表題『“禅語”遊心』といいながら、観音さまを描いた掛け軸にはほとんど言葉が書かれていない。それは、描かれた絵そのものが雄弁に物語っているからです。ところで、なんで「観音さま」というのはどれもこう見目麗しいのでしょうネ。そんなことはさて置き、観音様というのは三十三変化をする、といわれております。じっさい、三十三種類に描かれた「観音さまの絵」もあるそうです。
「観音さまとは、我々人間が本来持っている慈悲と知恵を象徴した存在」なのだそうです。そして、常に苦しみ悩む人たちに、我々が食事をしたり眠ったり、という日常のごく当たり前の自然な行為と同じように、なんの計らいもなくそのような人たちに応じ手を差しのべておられるのだそうです。そして、そのように人を助けながら決してストレスを溜め込まない、だから観音さまはいつもああして「涼しげ」な風情を漂わせておられるのです。
それは、「これはあなたのためにしていること」という意識を持っておられない。「ひとのタメ」と書いて「偽り」と読む。人は人助けをするときに、実は自分のタメにしている、「人助けをしたい」という自分を満足させるためにしているのではないでしょうか。
観音さまは、実はそのことを見抜いておられる。人助けをして感謝されなかったら人はそれがストレスになってしまう、「せっかく私がしてあげたのに」。その思いがやがて鬼を生み出す。観音さまは心底そのことを知っておられる。そして、ご自身ではもうそのような目論見の心を卒業されておられる。
観音さまにお会いしたかったら、今、目の前に居る苦しみ悩む人たちに何の思いも持たず手を差しのべてごらんなさい。その目の前の人は、ひょっとしたら三十三変化した観音さまの一つの化身かも知れません。